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ニュージーランドでの日々を書いています。

金欠の情弱がATM前で踊った話

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2020年5月中旬。

厳しいロックダウンレベル4の措置によりNZの感染者数はかなり抑えられ、ロックダウンレベルは4から3になり、3から2になろうとしていた。最高レベルであるレベル4は飲食店を含むほぼ全ての店が閉まるが、レベル3は店内飲食不可・持ち帰り可の営業であればオープンできる。レベル2は距離を保っての店内飲食が可能になり、飲食店はほぼ営業可能になる。

NZ全体としては先行きが明るくなっていく中で、私の目の前は真っ暗であった。主にお金に関して。

口座には現在300ドル弱(日本円にして約2万円)。なかなか崖っぷちである。しかもこちとら無職である。なかなか大変がけっぷちである。しかし日本の自分の口座にはまだ多少貯金がある。そこからクレカを使って海外キャッシングを試みれば残りのロックダウン中の家賃ぶんくらいはなんとかなるだろうと思った。というかなんとかなってくれないといよいよ崖から落ちて死ぬ。

銀行が開き窓口の営業が始まるのはレベル2になってからだが、エントランスの二枚ガラス扉のうち一枚目の扉は開いており、手前にあるATMは使用できることは以前散歩中に確認していた。(ちなみに街中にもATMはあるが、キャッシング機能のあるATMは銀行の内側にしかない)

レベルが下がったらきっと皆シティに出てくるだろうと踏んで、人気がまだ少なそうなロックダウンレベル2への移行前日に私は街に出た。君子人混みに近づかず、だ(そんな諺は無い)。
ただ、君子はきっと口座残高が300ドルになる前に銀行に向かうのだろう。
というかそもそも君子の口座残高が300ドルになることなどきっとないのだろう。

 

予想通り人がまだ少ない街を抜け、銀行に到着し、ATMにクレジットカードを入れる。
引き出せる上限が200ドルまでだったので、ひとまず200ドルを押してみる。
…ちゃんと出てきた。
いや押したので当たり前なのだが、なぜかあらゆる機械をボタンを押しただけで破壊したり、いざという時エラーになったりする私にとっては感動の瞬間であった。残金ギリギリかつ海外でロックダウン中といういかにも私が何か引き起こしそうな非常事態下、頼みの綱である機械が正常に作動するなんて。

さて、次はこの200ドルを現地口座に入れればいいだけである。クレジットカードを銀行のカードに持ち替えて、意気揚々とPINナンバーを押した。
開かぬ。
隣のボタン押しちゃったりしたか?と注意深くもう一回同じ番号を押した。
開かぬ。
「……」

ええいもう一回!と同じ番号を3度続けて入れた瞬間に気づいたが、私が入力していたのは食費・家賃支払いに使用している恋人との共同口座(他社銀行)カードの暗証番号であった。
つまり3度とも私個人のカードの暗証番号ではなかったのである。
2回弾かれた時点でカードを確認すべきだし、己を疑うべきだったのだが、なぜかその時の私は曇りなき眼差しで、前科まみれの自分を信じきっていた。
そして疑いもせず3度間違ったナンバーを入力した結果、ロックされた。具体的にはATMが「お前にこのカードを返すわけにはいかん」的なことを言って、カードを食ったままスンとなった。

 

ロックダウン中銀行残高3桁無職、銀行カードなし(←new!)
ここにきてステータス更新である。

 

 

 

………いやいやいや!
new!じゃないのよただでさえ崖っぷちにいたのに掴んでた崖が崩れたよ今!
えっこれ暗証番号が使えなくなるとかじゃなくカード自体が返ってこないの⁈
これ一体どうしたらいいの⁈

一瞬動揺したものの、ここは銀行のすぐ前のATMである。そして銀行は明日から営業なのである。ガラス越しに営業準備をしているスタッフが数人見えたため、手をブンブン振ってみた。
が、「いや明日からだから(笑)」みたいなジェスチャーと共に全然相手にされなかった。

………いやいやいや!
いやあの別にワタクシ曜日を勘違いして来ちゃったわけではなくて!
今私の横にあるこのATMが私のカードを食ったまんまで!
これ一体どうしたらいいの⁈

ガラス扉が歪まない程度にトントンとつついてみたり、
手をパタパタさせて謎のダンスを踊ってみたりしたのだが、
中のスタッフはしきりにソファを動かしていてもう全然こっちを見なかった。

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そりゃそうだ。踊る不審者より明日の営業準備である。
私はしばらく踊ったのち、注目を集めるのを諦めた。

動くに動けぬままその場でウロウロしていると、次の利用者がやってきた。
もう、全然わかんないからこの人に聞くしかない。
ただお金をどうにかしたかっただけであろう工事現場っぽい服を着たおじさんに、
「このATMさっきまで私使ってて、でもカード出てこなくなって、中のスタッフには聞けなくて、what should I do
的なことを半泣きで伝えたら、
「それもう明日の朝また来るしかないやつだよ」と残念そうな顔で言われた。

驚く様子のないおじさんの顔から「ひとまずこれは『超レアケース』というわけではないらしい」ということは分かって一瞬安心したものの、いやここは異国である、ひとまず別の人にも確かめようと思い、おじさんに礼を言って店を出た後、同系列の他店舗に向かった。

同じくガラス扉は閉まっていたものの、そこは扉のすぐ横にスタッフのいるデスクがあったため、ちょっと踊ったら今度はすぐスタッフが近づいてきてくれた。(人目を惹こうとする際に「踊る」しかコマンドがない自分が情けない)

先ほどATMがカード代わりにペッと吐いていったレシート的なものををガラス越しに見せたら、やはり残念そうな顔をしながら「それもう明日の朝また来るしかないやつです」と教えてくれた。
どうやら「明日行けばいい」のは本当らしい。疑ってごめん最初のおじさん。愚か者に教えてくれてありがとう。
そしてATMも別に壊れたわけではなく、正しい動作として私のカードを飲み込んだらしい。疑ってごめんATM。愚か者から守ってくれてありがとう。
セキュリティがしっかりしている証拠である。これは今後も安心だ。現に私の口座はこうして一人のバカから守られた。ただ唯一残念なのは、そのバカが口座主だという点である。
いつかは言ってみたかった台詞、「I'll be back.」を呟き私は現場を後にした。これを言う相手がATMになるとは、我が人生残念極まれり。一体今日だけでトータル何回残念そうな顔をされたのか。


というわけで、結局その翌日も、しかも早起きで銀行に行く羽目になってしまった。君子人混みに近寄らず、のつもりだったが、君子どころか自分の予想をはるかに下回るバカだったので仕方がない。だいたい、「違うよ」って言われてんのに三回同じPIN番号入れるの、もうバカとしか思えない。うっかり前科が多数あるのに毎度その自信はなんなんだ。

でも私は行かねばならない。愚かさの代償を払いに。……払いにっていうか、いや正確には預け入れをしたかったんだけど、もう別にそれはしなくてもいい、カードが戻ればなんでもいい。
銀行に行く前よりだいぶ下がった任務のハードルにがっくりしながら、私は翌日再びATMに向かい、受付の人に何度目かわからない残念な顔をされながら、無事自分のクレジットカードを奪還したのであった。

 

 

初めてのワーホリでロックダウンにノックダウンされる話

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2月下旬に仕事を辞めた私は、その後少しだけ旅行をして、帰ってきたら就活をして職を手にし、完全英語環境の職場を手に入れる、はずだった。

学生ビザ持ちの恋人は学校の後に仕事をしており、私の次の仕事によっては会う時間の調整が難しくなるかもしれないのでもう一緒に住んでしまおうかという話になり、猫ちゃんズと涙のお別れをしてから(猫側は別に泣いていなかったが)私は恋人と共にシティ中心部のフラットに引っ越した。

既にこの頃コロナウイルスが国外で取り沙汰され始めてはいたものの、まだそこまで大事になると思っていなかった私は呑気にも、ワイナリーで有名なワイヘキ島への日帰り旅行や、温泉地として有名なロトルアでの旅行を楽しんでいた。なんだかんだずっと語学学校や仕事があったので、ニュージーランドにワーホリに来てからはこれが初めての旅行であった。

 

ハワイのような爽やかな風が吹く快適なワイヘキ島も、

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ディズニー映画のような美しい景色溢れるロトルアも、とても素敵な場所だった。

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よって、旅行に行ったことは後悔していない。


後悔していない、が。


旅行から帰ってきて2週間ほど就活し、いくつかトライアルで来てみますか的な話ももらい、順調に決まりそうだなあ良かった良かった、と思っていたあたりでNZ政府が突然、3日後からのロックダウンを発表した。

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いやロックダウンってなに?ていうか3日後て。
軽くパニックになりながら、スーパーに列を作る人々を写すテレビをただ眺めていた。
ぜんぜん「良かった良かった」ではなかったのである。
そしてこれは私の人生あるあるパターンの1つなのである。

NZ政府は
・ロックダウン後もスーパーは時間短縮して毎日営業すること、
・品物の確保は十分にあること、
・働けない間は政府から職場に補助金が降りること、
・今の所ロックダウンは一ヶ月を予定していること
をアナウンスしていた。
人々も困惑しつつも等間隔に列に並んでスーパーに入るのを待っていて、発表直後も大きな混乱は(私の感覚では)なかったように思う。

ひとまずスーパーに並び、鶏肉等の生ものだけ少し買ったあと(というか既に少ししか品物がなかった)、我々はゲームショップへ向かった。
一ヶ月ゲームで遊び倒すためである。
するとなんと、ゲームショップも長蛇の列だった。
みんな考えること一緒か。
おそらくシティ中のゲーマーの思考が一致した瞬間であった。


そして3日後、ロックダウンが始まった。
こんな急に出されても皆対応できないのでは?と思っていたが、まあまあ高層の部屋から見下ろした街には完全に人気が消えていた。
エッセンシャルワーカーの一種である運送関連の仕事をしていた恋人はロックダウン中も電車を乗り継いで仕事に行っていたのだが、街中も電車内もほとんど人がいなかったそうだ。

スーパーの行列は2週間程度でほぼ目立たなくなった。
ロックダウン当初は多少混乱があったものの、スーパーのスタッフたちの圧倒的な頑張りにより品物が宣言通りちゃんと補充されていくのを見て、皆パニックからはわりとすぐ目覚めたようだった。
人との距離をとっての適度な運動のための外出は許可されていたので、同じ家に住んでいる人と散歩に出かける人がちらほら増え、街では散歩する子供連れにむけて家の窓辺にテディベアを飾って道行く人を楽しませる企画が流行り、アラサー児であるところの私も窓辺のテディベアを数えて楽しんだ。

日本の記事でも多々取り上げられていたかと思うが、この時のNZ政府の対応は本当に優秀だったと思う。迅速で確実な対応を、期限を決めて、十分な補償と共に行った。
そして首相は「出歩くな」ではなく「親切であれ」と言った。
企業広告は自社の利益や商品イメージよりも「Stay safe,Be kind」のメッセージを優先して伝えるため店頭の広告を急遽変更して街に掲げ、人々はテディベアを窓辺に飾った。
国って政治でここまで違いが出るもんなのかと、マスク2枚を郵送しはじめたらしい母国の政府を私は憂いた。


しかし、である。
いくらNZの政府が有能だからといって、今まさに就活をしていたワーホリ生までは掬い取れない。
学校卒業からほぼずっと毎日仕事をしてきたくせに、このタイミングでたまたま仕事を辞めていたなんて、そんな間の悪い奴がいるだろうか。

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いるのだ。ここに。アーダーン首相もびっくりの間の悪い人間が。
しかも歯の被せ物が取れ虫歯も治療して旅行も行って、出費が嵩みまくった挙句にロックダウンとなった人間が。
いやじゃあロックダウン前に呑気にゲームソフト買ってんじゃないよ。
でもこれは必要経費だから仕方なかった。


アーダーン首相率いるNZ政府の元、万全の体制で広げられた政府の網から見事転げ落ちた私は、最初こそ散歩しながらテディベアを数えて喜んでいたものの、最後の方は震えながら自分の銀行残高を数えて憂いていた。

面接後にジョブトライアルする予定だったいくつかの職場も、「今いる従業員をまずは守るため」と採用を見送られた。まあそりゃそうだ。誰だってそうする。私が経営者だってそうする。
まだ働いている恋人にひとまず家賃を払ってもらい、私は貯金を崩して食費を払うことにしていたが、当初一ヶ月の予定だったロックダウンは2週間延長され、だんだん貯金の底が見え始めた。

初めてのワーホリ、ロックダウン、無職、貯金3桁。
残念ビンゴが、またもリーチになってきた予感がした。



インドアオタクが屋外アクティビティーに挑戦する話

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2020年。
1月は仕事と猫(家)の往復でほぼ日々が過ぎていき、2月。
月末に勤務先を辞めた。

インド人と激突した末の結果ではなく(実際日々戦ってはいたのだが)、なんだかんだ日本人が多い場所では結局日本語を使ってしまうため、そろそろ英語を主体で使う勤務先にしたほうがいいかと考えたからだった。

何人もの日本人がブチ切れて即日で辞めて行くなか、退職日まで感情を捨てて黙々と鶏肉を切り刻んでいた私に職場のインド人たちは一周回ってむしろ優しくなっていた。
「I will miss you!」との言葉に微笑んで手を振りながら、じゃあNetflix観てないで多少仕事手伝って欲しかったわと思いつつ職場に背を向けた最終勤務日。


の翌日、私は10m超の上空の木の上で震えていた。


語学学校時代の友人たちに「Tree Adventuresいかない?」と誘われ、仕事の都合で友人たちとろくに遠出できなかった私は、なにそれ!いくいくー!と大して説明も聞かずホイホイ参加した。
飛んでアクティビティに飛び入る夏の運動音痴である。

その日は友人が大きい車をレンタルして、近くのスーパーで昼ごはんを買ってから出かけることになっていた。

そのスーパーで美味しそうなチキン弁当を発見し、アクティビティをするなら美味しいもの食べんと‼︎と意気揚々と購入、久々の遠出でウッキウキの私に死角はないと思われた。


現場について木々を見上げた私の第一声は、
「エッこれやるんですか」
だった。
専用の装備(命綱的なもの)をつけて木々の間を進んで行くのだが、ターザンロープ、左右に揺れる足場、その他多数の仕掛けが高さ14mの場所に吊るしてある。

SASUKEか。
日頃狭いキッチンでひたすらチキンや玉ねぎ刻んでた人間が。
急に高い木の上でSASUKEか。

もちろん安全面はしっかりと考慮されており、二重のベルトが身体を支えているため最悪木の上で手を離しても全然大丈夫なのだが、今まさに木の上にいる人間的には「全然大丈夫じゃない」事に変わりはない。


眼下に三途の川(幻覚)を見ながらなんとか数コースを終え、早くも始まった筋肉痛で手足をガクガクさせながら迎えた昼食の時間。
そうだチキン弁当、買ってた。よかった、カロリー欲しい、今。
疲れ過ぎてロボットのような動きになりながらも、弁当を取り出す。
そして取り出して気づく。
箸もらってくるの忘れた。

周りをサッと見回してみるが、大概皆サンドイッチかバーガーで、
そもそもカトラリーを使わないものを食べていた。皆なんて賢いんだ。
そして私はなんで今日チキン弁当にした。せめて寿司であれよ。
数人私と同じ弁当勢がいないこともなかったが、誰かが食べ終わってから割り箸をもらって食べるとなると、たたでさえ食べるのが遅い私は全員をかなり待たせてしまう。
あと「使い終わった割り箸くださいグヘヘ」と言うのも何か気がひける。
今後誤解が解けるまで全員に距離を置かれてしまう。

悩んだ結果、チキン弁当を前にして私は静かに瞑想にふけることにした。
弁当、買ってなかった。お腹すいてない、カロリーいらない、今。
絶望の果てにロボットのようなトーンで己に言い聞かせていると、私を哀れんだ友達がハリボーのグミを恵んでくれた。
ありがとう…と弱々しく言いながら数粒むしゃむしゃしていると、今度は口の中でガリッという音がした。
ペッと出してみたら、銀色の金具だった。

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なにこれ絶対にハリボーのパーツじゃない。

鏡で口内を調べたら、数年前かぶせた奥歯の被せ物が取れていた。
もう神様がイジメ抜いてきてるとしか思えなかった。
筋肉痛かつ昼飯忘れて空きっ腹、あげく数年前の歯の被せ物が今取れるって何。

ちなみに私は以前2週間ほどヨーロッパ旅行に行った際、行きの飛行機で虫歯が目覚め、到着とともに鈍痛が始まりその後まともにご飯が食べられずやつれて帰国したことがあるので、今回は慎重を期して出国前に2箇所の歯医者をハシゴしていた。
レントゲンを撮ってもらっても信じきれず、念のため鎮痛剤までもらって、虫歯に対しては万全の構えでいたのだが、数年前に治療が終わった奥歯の被せ物が今取れるとは正直予想外だった。
外からの敵を警戒していたら家臣の明智光秀に裏切られた織田信長も多分こんな気持ちだっただろう(絶対に違う)。

きっと歯医者達も被せ物の耐久年数超えは予想外だっただろうから、彼らを責めることはできない。
口から出てきた銀のクラウンを見ている間は、流石に空腹を忘れられた。
いっそステータスがただの空腹だった頃の方がマシだった。

己の奥歯の被せ物を眺め呆然としている私をよそに、友人は言った。
「よしじゃあ次のコース行こっか」と。
そして私は言った。
「エッまだ終わってなかったんですか」と。
なんなら一番過酷らしいコースがまだ2本くらい残っていた。
ただでさえ個人的には空腹かつ歯が負傷中という過酷コース真っ只中なのに。
こちとら奥歯が本能寺の変なのに。

 

1つのコースはなんとかいけたが、もう片方は雲梯らしきものが出てきた瞬間棄権した。
私の腕の力は深窓の令嬢もドン引きするであろうレベルで貧弱なのだ。
雲梯にぶらさがり己の体重を支えた状態で前に進めるわけがなかった。

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念のため書いておくが私の運動神経と筋力が人より残念なだけで、一般の方にとってここのアクティビティはとても楽しいはずである。
筋力残念人間側からのレポートでは楽しさがうまく伝わらないと思うので、今後ニュージーランド北島に行く予定のある方はぜひ以下からチェックしてみてほしい。
そしてお昼には箸やフォークを忘れないようにしてほしい。

treeadventures.co.nz

夕方くらいまでアクティビティを満喫したあとは皆で焼肉に行った。
私は燃え尽きた本能寺(被せ物を失った歯)に当たらないよう慎重に食事を終えたが、運動のあとの肉はそれでもやっぱり美味しかった。


そのあと駆け込んだ歯医者で被せ物を作り直して再び付けてもらったのだが、「その歯よりむしろ隣で静かに成長している虫歯がまずい」と言われ、また新たな謀反かよ!とガックリしながら翌週も歯医者に行き別の歯を治療した。口内の信長に人望がなさすぎる。
私の海外旅行保険では歯の治療はカバーしていなかったため、合計800ドルくらい(日本円で約65,000円)支払う羽目になって泣いたが、虫歯が激痛になってから処理をする場合は更に高額になるらしいので、歯の被せ物はむしろ隣の虫歯の進行を主人に知らせるために自ら身を投げ出した可能性もある。
そう考えたら途端に被せ物が愛しく思えてきた。
ありがとう銀の被せ物。何で今取れんだよとか言ってごめんな。
ありがとうハリボー。グミで高額治療かよとか思ってごめんな。

そう思いつつも、未だ私はスーパーでハリボーを買う気になれないでいる。

 

 

新生活と真夏のクリスマスの話

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新居で暮らし始めてしばらくして、元クラスメイトと恋人になった。
その1週間後、掲示板で見つけたお店での勤務が決まった。
卒業後、LoveとJobを同時ゲットである。(やかましい)
新しい家、新しい恋人、新しい職場。
我が人生にしてはなんだかめずらしくキラキラな気配がするではないか。
極めつきには家に子猫。しかも5匹。イッツパーフェクトライフではないか。


新しく働き始めた職場はショッピングモール内の弁当屋のようなところで、チキンを切ったり米を炊いたり表の料理を補充したりといった、『キッチンハンド』というシェフの手伝い係のような仕事をしていた。
接客スタッフは全員日本人や韓国人の女性だったが、シェフは全員インド人という少々謎なメンバー構成の店だった。

接客スタッフの女性陣は皆優しかったけれど、キッチンのインド人男性たちは自分の仕事が終われば私に大量の洗い物を投げて調理台に座りNetflixを観始めるという状況で、
(これは…カルチャーの違い?それとも彼等の人間性の問題?)
と内心首を捻りながらひたすら真顔で鍋にこびりついたスパイスを洗った。
なんだか日本で見てきたあらゆる「不真面目な同僚」がまともに見えてくる。
私が見ていた世界は狭かったのだ…と自分に言い聞かせつつ、Netflix鑑賞に勤しむ背中におたまでも投げてやりたい衝動を抑えた。
今思えばかなり特殊な環境だった気がするが、私にとってはここの店が初めてのNZでの”職場”だったので「海外の店ってこんな感じでやってんのかあ」程度に思っていた。

最初はそれでも日本人マネージャーの指導の元に仕事はきちんと回っていたのだが、帰国する彼女の代わりにインド人マネージャーが襲来した辺りから風向きが変わり、私の不在の日に接客スタッフが全員ブチ切れて翌日ストライキを起こしたり、私の休憩時間15分の間に接客スタッフがシェフと喧嘩し一気に3人辞めたりした。
いや私の不在の間に毎回何か起こりすぎだろ。日々なかなかの急展開である。


日々ストレスやカルチャーショックを感じつつ私が働き続けていられたのは、決して私が我慢強かったからではない。
仕事後に一直線で家に帰り床に転がりスマホを構え、転がる猫ちゃんたちを愛でる日々を満喫していたからである。
ワーホリに来て一ヶ月半、写真フォルダの中身は全部猫になった。
いやNZの写真を撮れよと友人全員にツッコまれた。もっともである。
だが子猫を前にしたら人類みなIQが3になる。これは不可抗力なのである。


日々インド人と戦ったり子猫ズに癒されたりしているうちに、一ヶ月はあっという間に過ぎた。
ニュージーランドは日本と季節が反対なので、2019年の12月は私の人生初・真夏のクリスマスとなった。
長袖長ズボン三角帽というサンタクロースのビジュアルはここでも共通らしく、皆が半袖で行き交う街角で踊るサンタのディスプレイは日本人から見るとかなり不思議な光景だった。
そして皆一応飾りつけはする割に装飾が雑なので、梯子に登るサンタの梯子部分がサンタの首に絡まりなにやら事件性のある装飾になっていたり、目が虚ろなサンタが店頭のウィンドウにただ横たわっていたりして、総じてまあまあ怖かった。これを店に飾ることで一体どんな客層の来客を促しているのだろうか。


クリスマス当日は(私としては)頑張ってロールキャベツを作り、恋人の家に行って「お口に合うかしら」的なことをのたまってみたのだが、相手の偏食度合いと警戒心の強さが私の想定を超えており、冷静な顔で「あっ僕は大丈夫」と一口も食べないまま返されてブチ切れるなど、ささいな事件があったりはしたが、概ね日々は順調だった。

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…概ね日々は順調だった。



そして大晦日
晦日には年越しの瞬間にシティで花火が上がるため、恋人と夜に出かけ、大勢の人と上空を眺めながらじっと花火を待った。

全員でカウントダウンをしながらライトアップされたタワーを見つめ、
空高く上がった花火に歓声をあげて、
来年日本に帰ったらどうしようかなぁなどと、
呑気に未来に思いを馳せていた。

その時は2020年が大変なことになるなんて、きっとあの中の誰も予想していなかった。

 

ゲームオタク×2が国際恋愛する話

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卒業後、元クラスメイトと恋人になった。
そう、あの同じ日に入学した非友好的オーラ全開の学生である。

私も決して明るく友好的とはいえない部類の人間なのだが、そんな非友好的な人間同士がなぜ仲良くなったのかというと、英語だらけの環境に脳が疲れきっていたところお互い全く相手が話しかけてこないのでひとまず避難場所として近くにいたのと、「ゲーム」という共通の趣味があったからだ。

ある日俯きながら同じテーブルで(無言で)ご飯を食べていた際、共通の友人(社交的)に同時に遊びに誘われた。
私にはテンションが上がるとオタクアイテムを身につける習性があるのだが、以前友人達と沖縄に行った際にウキウキでジョジョのミスタTシャツを着て行ったら
「沖縄の女子4人旅でジョジョTシャツ着てくるやつおる⁈ミスタの圧つよ‼︎
と言われて(そうか違ったか…)と己のTPOを省みた記憶があり、少し考えたのち今回は任天堂コラボのTシャツにしてみた。オタクなことには変わりないのだが、Tシャツとしては圧がそこまで強くないだろう、というTPOが死にかけている人間なりの微々たる配慮のつもりだった。

そして当日、そのゲームオタク全開Tシャツを着てルンルンで現場に行ったら、待ち合わせ場所に同じく任天堂のゲームオタク全開Tシャツを着た彼がいて、お互い((うっっっっわ))とまあまあ衝撃を受けたのである。

NZ来て初めての友人達とのおでかけデーに任天堂Tシャツ着る奴、私の他にもいるんか。
と己を棚に上げてちょっと引いた。(多分相手もちょっと引いてた)
ただお互い「同じニオイのする奴」として認識をしたのは確かで、それ以降なんとなく一緒に行動するようになり、一緒に遊ぶようになったのだった。


もともとゲームだけでなくアニメも好きな彼は私が同類と確信した後、最初の無愛想ぶりとは打って変わってよく話しかけてくれたのだが、

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毎回予想の斜め上の知識を披露し私をしばし圧倒させた。
いやそれ日本人でも下手したら半分くらいは知らんぞ。

 

よく日本人同士のカップルに聞かれる質問に、「外国人と付き合う時って告白とかあるの?」「意思疎通とかどうするの?」の2つがある。


前者に関しては人によるらしいが、私たちの場合はあった。
ただその時の言い回しが「Do you want to be my girlfriend?」で、当時の私は"want"が誘いの意味で使われることを知らず、日本の教科書でよく使われる"したい、欲しい"の意味で受け取ったため、
訳:お前は俺の彼女になりたいのか?
だと受け止め、(なんだこの俺様野郎は?)としばし呆然とした。
そして「そんな言い方があるか」とその場でキレて相手も呆然とした。

その後話していくうちにお互い相手の呆然顔の意味を理解したのだが、あとで調べたらこの勘違いはわりとあるあるらしく、皆クラスメイトや友人の突然の上から目線に困惑していた。
海外に来たら意味がわからない単語ばかりを調べがちだが、知ってる単語の他の意味も調べておいた方がいい、とこの事件で学んだ。
私の知識不足のせいでキレられた恋人、かわいそう。(他人事)


そして意思疎通に関してだが、お互い母国語ではない英語で話しているため100%の理解はできない。ただ元々学力テストで同じクラスに振り分けられているだけあって英語力はだいたい同じくらいなので、多少時制が違っても単語が間違っていても通じはする。
そして勘違いしてはいけないと思うのは、たとえ日本人同士でも100%の理解なんてできないということだ。
言葉が一緒だって文化が一緒だって、家庭環境や個人の思考の違いはある。
私の場合、友人同士ではそれが尊重できても、恋人相手ではそれをつい忘れてしまいがちになる。
この点に関してはおそらくもう少し精神の鍛錬が必要なのだろうと思うが、少なくとも彼相手には、その彫りの深い顔を見るたびに(あ、そうか違う人間だったわ)とすぐ思い出すことができる。顔の凹凸に差がありすぎて冷静になれるのだ。
ええこちとら平たい顔の奥二重、ついでに猫背ですどうもすいませんでした。

文化が違うことに苛立つこともあれば面白いと思うこともあり、それらはお互いの感情や見方の問題であり、ケースバイケースだ。
「文化が違う」ことそのものがマイナスになったり障壁になることは、今のところ、我々の場合はない。
そして言葉が違っても文化が違っても、家庭環境や個人の思考が違っても共有できるものはある。
今後のことはわからないし、共有できなくて悲しくなる時もあるが、ひとまずは共有できるものを大事にして、増やしていけるといいと思う。

例えばお互いが知り合う前にやっていたゲーム内の音楽とか、
知り合った時の共通の友人とか、
知り合った後に作っていく思い出とか。
世界共通のポケモンセンターのメロディを口ずさむご機嫌な恋人を見ながら、
そんなことを思うのであった。

 

 

 

出不精がワーホリ先で次なるホームを探す話

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ニュージーランドに来た初日から学校を卒業する日まで、私はワーホリ斡旋会社が手配してくれたホームステイ先に滞在していた。

ホームステイ先は退去予定日の2週間前までなら滞在延長が可能だったのだが、私の場合は一ヶ月ほどでホームステイ先を出る予定だったので、逆算すると到着して2週間以内には次の家を決めるか、今のホームステイ先を延長するのか決めなければならなかった。
自分が学校費用をケチった結果こうなったので自業自得だが、なかなかお忙しいスケジュールである。
家も見つからずホームステイも延長できず、一ヶ月後に公園で雨風を凌ぐ自分の姿が割とはっきり脳裏に浮かんで、再びひっくり返って痙攣しながら泡を吐きつつ、私は次の家探しを始めた。
(今ならバックパッカーに泊まれよと思うが、当時はそれすら知らなかった。家 or 野宿のちDeath だと思っていた。無知は死に繋がる)
 

NZに来て2週間後の週末、日本人専用の掲示板で探したフラットに見学に行った。
2週間目にしてだいぶグッタリしていた私はせめて日々に癒しが欲しいと、「シティの近く、猫」と検索窓に入れて新居の候補を数件見つけていた。
そして結論から言うと、この検索の仕方は大正解であった。

最初の一軒めを見学に行った際、日本人のオーナーさんから「最近子猫が生まれたんです、5匹」と言われた。
最初の一軒めだったがその瞬間、すでに契約書へサインすることを決めた。

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「子猫との暮らし」を頭の中で描いたならッ!
その時スデに行動は終わっているんだッ!
と私の中のプロシュート兄貴(きっと猫派)が吠えた。
 
猫。しかも子猫。
英語ができなくても仕事が辛くても、もうなんだっていい。
帰ってきて猫を触れるなら。
 
私に必要なのはこの家だ、と言葉ではなく心で理解できた。そして私の住処は結果的に、本当に2週間で決まった。ありがとうプロシュート兄貴
ひっくり返って痙攣しながら野宿を思い描いた前日から一変、フラット見学からスキップで帰る私の脳内は来たる子猫たちとの甘い日々に向けて浮かれまくっていた。


学校を卒業した翌日、新しいフラットへの引っ越し日。
ご婦人達に別れを告げ、重いキャリーバッグにつんのめりつつ、バスと電車を乗り継いで新居へ向かった。

電車に乗ってから降りるまでモタモタしつづけている私を見かねてか、電車でたまたま隣に座っていたアジア系の男性がなんと一緒の駅で降りてキャリー運びを手伝ってくれた。
NZで出会う人たち、モタモタしてる人間に優しすぎないか。私のための国かよ。(甘えるな)


しかしありがたいとはいえここは海外、知らない人にいきなり新居を特定されるわけにはいかないので、駅から少し歩いたところで「もう大丈夫!」と告げたのだが、
「ありがとう!」と最後歩道を渡った直後、
「最後に一つ聞いていい?What's your name?
と彼が叫び、私たちの間を新しい風が吹き抜けた。(厳密には車が1台普通に通った)

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いや新海誠監督作品か。今から何か始まるやつかこれ。

流石に一瞬で恋に落ちたりはしなかったが、せめて去り際くらいヒロインみを出そうかと下の名前だけ告げてドラマチックに去ろうとした瞬間、道路の段差にキャリーを取られ昭和のギャグ漫画フェイスでつんのめった。
私のポテンシャルでは新海誠監督作品のモブさえ務まらない。調子乗ってほんとすいませんでした。

気落ちしたのも数分、新居に到着してダイニングに降りた瞬間に奥の部屋から興味深げにこちらを見つめてくるふわふわの生き物たちを発見し、自身の作画のことなど全てどうでもよくなってしまった。
猫の前では全ての問題は無意味。
そして私のもふもふ満喫NZライフがスタートしたのであった。

陰キャがスクールライフに奮闘する話

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ニュージーランドにやってきて3日目。
ついに学校が始まった。

学校は海外ドラマで見るような広い庭園や石造の校舎などではなく、街のビルの中の一部に入っているような小さい学校だったが、先生も学生もフレンドリーでアクティビティも多い、良い学校だった。
初日は十数人程度の学生と共にオリエンテーションや学力テストを受け、オリエンテーションに混じっていた日本人2人と何とか仲良くなって終了。
2日目からは学力テストの結果によりレベル別にクラスが分けられ、その中で過ごすようになった。
 
前日にオリエンテーションで話していた日本人2人は同じクラスにはならず、私と他にもう一人、計二人でその日のクラスの新入生として入ることとなった。
到着してから4歳児ショックと方向音痴の大冒険イベントを終えていた私は「初日から友達つ〜くろ!」的エネルギーなどとうに枯渇して目が死んでいたし、もう一人の学生も伏せた目と首元のヘッドフォンが隠キャオーラを醸しており、フレッシュ新入生のはずの我々は疲れ切った社会人の雰囲気で教室に入り、友好的な会話ゼロのまま各自腰を下ろした。

ちなみにこの後この学生は私の恋人となるのだが、この時点では当然恋の予感がしたり背景にバラが咲いたりはせず、人生の転機の瞬間としてはあまりにドライなものとなった。
せめて同じクラスになった瞬間「Love so sweet」くらい流せばよかった。
いや流し方知らんけども。

さて予想はしていたが、最初の一週間は怒涛だった。
授業の英語はよく分からないし、家に帰っても英語だし、なんならテキパキ老婦人は先生より早い英語で当然聞き取れないし、一回一回日本語に訳して意味を把握して答えをまとめてまた英語に直して喋って…なんてやっていたせいで頭が常にパンパンであった。
相手からしたら「この間○○に行ってさ〜」的なちょっとした無駄話でも、
(アッ話しかけてる⁈私に⁈最初聞き逃したな⁈でもどうやらどこかに行った話⁈今の単語なんだ⁈固有名詞か⁈私の知らない一般的な単語か⁈まって喋るの早くない⁈あっ私今顔怖い⁈笑顔はキープせねば!でもこれ何言ってんだ⁈だめだ全然分からない!せっかく話しかけてくれたのにごめん‼︎もう誰も喋りかけないで…ウワァー‼︎) ……サァ……
などと相手の話し中に勝手に塵になっていく有様で、
「誰か回復薬をくれ」とひっくり返って痙攣しながら泡を吹いていた。

そんな調子で通学しはじめて約3日、
「これはいわゆるレベルが上すぎるステージに来てしまったやつやな」と結論を出した。
いきなりヒョイとやってきて外国人の友達作ってレッツ異文化コミュニケーション!⭐︎
的なレベルに(語学力的にも性格的にも)私はいなかったということだ。

さてそれではゲーム内で、まともに歩けもしないような高難易度ステージに迷い込んでしまったらどうするか。
私は「仲間を増やして一緒に経験値を稼いでいく」戦法に出た。RPGの鉄板である。

幸い私のクラスには日本人の割合が半分近く、友達はすぐにできた。
(どこも中級クラスは「文法はできるが会話が苦手」な日本人が集まりやすいそうだ)
「学校で日本人と固まって日本語しか喋らない人もいて…」的な話も出国前に聞いてはいたが、私の友人達は皆他の国の人とも喋りたいという意欲が高い人達で、徐々に各自が日本人以外のクラスメイトとも話し始めたり、各国の挨拶などを教えあったり、友達が友達を呼んで一緒に食堂でご飯を食べたりするようになった。
仲間が増えればパーティー全体のレベルも上がりやすくなる。RPGの教訓である。


3週間ほど経って少し耳が英語に慣れたところで、英語の発音が綺麗な友人に教えてもらった”Meet up”というコミュニケーションアプリを使ってみることにした。

「英語学習」「趣味」「旅行に行きたい人」等沢山のグループが作られており、自分の好きなグループを見つけて申し込みをすると、任意で企画される集会やイベントに参加できるようになる。
英語学習を目的としたグループもあるから参加してみたら、と言われてそこから数回、現地の人たちとのカフェでの集会に参加した。
日本のアニメ好きは海外にも結構いるらしいし一人くらい反応してくれるかも、という軽い気持ちでジョジョのTシャツを着て集会に行ったら、いきなり隣に座った人がジョジョ好きで会話が弾んだ。着てみるもんである。

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なんなら鞄についていたキーホルダーと鞄の中にあるクリアファイルもジョジョだったが、なんとなく言わなかった。

この時点で私の英語力は甘めに見積もっても下の上レベルだったが、ジョジョのことになるとスルスル話せたし、相手の言葉も聞き取れた。
スタンド使いスタンド使いに引かれあう、ジョジョファンはジョジョファンに引かれあう。
そしてオタクパワーは言葉の壁を超える。これがその日の学びであった。
学校以外に友人の輪を広げられたのも嬉しかった。

週末に学校提携の日帰りツアーに行ってみたり、パブで軽やかに踊る友人たちにビビりつつ壁際でフルーツジュースを啜ったりと、隠キャなりにアクティブの皮を被って過ごしていたら(MPはだいぶ減った)、あっという間に私の卒業の日がやってきた。

卒業生は集まった生徒の前でスピーチをするという地獄の伝統があるのだが、あまりちゃんと話したことのなかったクラスメイトの一人が「君のスピーチとてもよかった!」とわざわざ後から言いに来てくれたので、卒業式の私はなにやら良いことを言ったらしい。
本人の方はスピーチ直後に全てを忘れていたので、動揺して「オッ Oh thanks」的な反応しかできなかった。ずっと陽キャを装っていたのに最後の最後で陰キャが出た。詰めが甘い。


こうして私は語学学校を無事(?)卒業した。
最初は1ヶ月の予定だったのだが、最終的には少しだけ延ばして6週間通った。
延ばした理由は、お金がかかる以上に良い経験も沢山増えたからだ。
放課後や休日に参加型アクティビティが豊富な学校も多いので、学校の掲示板をボケッと眺めていれば物ぐさな人間でも観光地情報が手に入るし、学生の間は年齢や人種や職種に関係なく、広く対等な友好関係が作りやすい。
2年近く経った今ではほとんどの友人は日本や母国に帰ってしまったが、NZにいる間は休みが合えばよく遊んだし、未だにSNSでやりとりもする。その人の母国の様子を見れば次の旅行で行ってみたいと思ったりもするし、ニュースで友人がいる国の名前を聞くと耳を傾けたりもする。
友人のSNSでどんどん私の世界が広がるのは面白いことだなあと思うし、語学学校に行ってよかったと思うことの一つだ。

忘れ去っていた英語を学び直すため短期で申し込んだ語学学校だったが、私にとっては語学力以外のところでも、沢山の学びと経験ができた場所となった。
これからもしあなたが長期で海外に滞在する予定なのであれば、最初に少しだけでも語学学校に通っておくことと、自分らしさを主張できるオタクアイテム的なものを持って行くことをオススメしたい。
それがきっといつか、自分にとっての回復薬になるからだ。