セーブデータ1

ニュージーランドでの日々を書いています。

ワーホリ延長女のちょっと怖かったある夜のお話


私が海外に行く際、最も重視するのは「治安」である。


綺麗な景色も美味しい食べ物も物価も大事だけれど、方向音痴な自分が安全に生き残るためにはなによりも治安が第一だ。欲を言えばふらっと歩いてポケモンGOとかもしたい。
しかし方向音痴な上に腕力がゴミかつコイキング並みにボーッとした顔をしている自覚があるので、うっかり治安が悪い路地などに迷い込んだらむしろこちらが捕獲される側になりかねない。コイキング顔した個体値低めのカモネギ、どう考えても普通のモンスターボールで一発ゲットだぜ、という危機感だけは辛うじてあった。
その結果、昔から選択する旅行先が「アイスランド」「マルタ共和国」などになり、友人たちに散々「それどこ?そして何故?」と言われてきた。ちなみに両国とも期待を裏切らない治安のよさで大満足の旅行となったが、治安とは関係のない私が勝手に巻き起こしたハプニングはたくさんあったので、この旅行記もいつか書く。平和な場所でもセルフで色々引き起こすのだから、危険な場所で色々引き起こしていたら心臓がいくつあっても足りない。

今回ニュージーランドをワーホリ先に選んだのも第一の理由は治安の良さだった。現在に至るまで今のところそこまで危機を感じた瞬間はないが、今月一瞬ヒヤリとした(※先に言っておくが最終的に治安は関係なかった)出来事があったので書いておく。

 

コロナから回復してからというもの、1ヶ月ほど私はなかなか寝付けないことに悩まされていた。
後遺症というやつかもしれない。ちなみに頭痛も定期的にあって、薬を飲んでからじゃないと皿洗いすらしんどい時もあった。
ネットで調べてみたところ、「コロナの後遺症は全200種類以上!」と妙に明るめな文章が出てきて肩を落とした。集め甲斐のあるおまけのシールみたいな言い方をするな。ちなみにコロナの後からなぜか職場の人たちと定期的にやっていたスマブラの勝率もかなり下がっていたが、もうそれもまとめて後遺症だと言い張った。200種類以上もあるならどこかにスマブラの勝率に関わる症状もあるだろう。(多分ない)


話を戻して私がなかなか寝付けなかった件だが、具体的に言うと電気を消して布団に潜ってから毎日2時間くらいただ目をカッ開いて天井を見つめて過ごしていた。同じくコロナだった彼氏は隣でスピスピ寝ていたのだが、私だけが寝れなかった。男性の方がコロナ発症時の症状は重めだが後遺症は軽め、という記事も見た。全体としての真偽は不明だが、少なくとも我々のケースはその通りとなったようであった。
そんなわけでしばらくややしんどめの日々を過ごしていたのだが、ある日珍しくスッと入眠できた日があった。(なぁんか今日はいい感じに眠れそうな気がする!)と思った5分後くらいにはもう寝ていたと思う。わあ良かった良かった、と薄れゆく意識の中で思った。明日はきっといい日になるよね、ハム太郎。と脳内でロコちゃんの声がした。

 


その数時間後。
私は自分の部屋のドアが開く音で目が覚めた。

最初は恋人がトイレにでも行ったのかと思っていた。
しかしその直後、隣から「Hey what are you doing?」という恋人の声が聞こえたのである。隣から。
そしてドアのほうを見ると、暗闇の中で誰かが立っていたのである。

キャー‼︎と心霊番組だったらSEが入る場面だが、私はびっくりすると声が出なくなるタイプなので完全に真顔かつ無言のままドアを見ていた。これがゾンビ映画名探偵コナンジョジョの奇妙な冒険だったら我々は「キャー‼︎」のSEの後に無力なモブとして即死んでいただろう。こちらも暗いし廊下も暗めなので誰なのかはわからなかったが、とりあえず手元に武器的なものは持っていないことだけはうっすら分かったので、その人物を注視しつつもやりとりは一旦恋人に任せ、自分は「背後の窓って人が逃げられる程度には開くんだっけ?」等と逃走経路を考えることにした。冷静に見せかけた現実逃避である。頑張れ恋人。


暗闇の中に立っている人物は、扉こそ開けたものの中には入ってこず、ただぼんやり立っていた。余計に不気味である。
隣の恋人がもう一度「What are you doing?」と問いかけると、何かモゴモゴ答えはしたが聞き取れはしなかった。しかしその声で、これは隣の部屋のフラットメイトだと分かった。しかし分かったところでなぁんだ良かった☆とはならない。未知の恐怖が身近な恐怖に変わっただけである。フラットメイトであっても夜中に部屋のドアを開けられて暗闇の中でただ無言で立たれるのは普通に怖い。
「Are you sleeping?」と言いながらとりあえず恋人が立ち上がり、そのままフラットメイトを廊下まで押し出して扉を閉めた。すごい怖い割には普通に素直に押し出されていった……と呆然としつつ扉の外の気配に耳をすませていたら、その後は別のドアを閉める音がした。どうやらトイレに行ったらしい。
しばらくしてまたドアの音がして、今度は隣の部屋に無事戻った音がした。全然よくわからなかったが、おそらく夢遊病か酔っ払いかどちらかだろうと我々は結論づけた。隣の恋人は「こんなの安心して眠れないよ」ともっともな不満を呟いていたが、私はそれに同意したあと割とすぐに普通に寝た。裏切ってごめん。我ながらあまりに繊細とはかけ離れた自分にたまにびっくりする。

 

翌朝、案の定あまり眠れなかった恋人が元気なく仕事に出かけて行った後。さすがに今回のは一旦報告すべきでは、と思ってフラットオーナーに昨夜あったことを伝えると、洗面所の横の部屋で寝ているオーナー夫婦は仰天し、
「私たちも夜誰かが洗面所の床を執拗にクイックルワイパーかけてる音がして目が覚めて、でも音はするのに洗面所の明かりはついてないし、おかしいなあと思ってたら洗面所と繋がってる引き戸が急に空いて、手だけがヌッと一瞬見えて、またすぐ引き戸がしまったの…お化けかと思ってた…」と言ってきた。
下手したら我々より怖いな!!!そして私が報告しなかったらお化けとして処理しようとしてたんかい!でも確かに手だけ見えるというのは全身見えるより怖いかもしれない。せめてもの救いは、暗闇でクイックルワイパーかけてる幽霊ってなんか綺麗好きっぽいねという点くらいである。これを救いとしてカウントしていいのかわからないが。

 

2組が被害(?)に遭っているため、何があったのかだけでも確認した方がいいだろうという話になり、その後オーナーがフラットメイトの扉をノックしたのだが、なんとフラットメイトは昨晩のことをまったく覚えていなかった。昨晩酔っ払って帰宅したのは確からしいが、帰宅したあとは記憶がないという。
いや怖!!!暗闇に立ってたとか手だけ見えたとかよりもうそのお酒の力が怖い。私も恋人も普段お酒は一切飲まないので酔うことに関する知識は人並み以下なのだが、それでも酔って色んな部屋の扉を開けた挙句に洗面所で床掃除をするというのは、まあまあ特殊な酔っ払いな気がする。
普段は真面目な好青年のフラットメイトはその後めちゃめちゃ謝ってくれた。酔っ払っていたとはいえ記憶がない間にやらかしていたとは、さぞ肩身が狭かろうと思うと気の毒である。一方私の恋人は、その後数日間は誰かが夜中洗面所に立とうとドアの開閉音を立てるたびに隣でちょっと緊張していた。こちらもまた気の毒である。

 

海外に長期滞在する、となった時、ホームステイやバックパッカー、フラット等様々な選択肢があるが、利点とデメリットを考えつつ滞在先を選ぶことをお勧めする。一般的にフラットはバッパーよりは安全とされているものの、ニュージーランドでは共有スペースがあるタイプのフラットには個人の部屋に鍵がついていないことも珍しくない。貴重品は鍵をかけてスーツケースにしまっておく、などの最低限の対策はもちろん大事なのだが、今回の様に悪意がなくとも酔っ払ったフラットメイトが部屋を間違えて入ってきたりする可能性もあるのだなぁと3年目にして気づきを得た。悪意のない相手から学べたのは幸いである。治安の良い国にいても、万が一の想定はちゃんとしておこうと思った、そんな一夜であった。