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ニュージーランドでの日々を書いています。

陰キャがスクールライフに奮闘する話

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ニュージーランドにやってきて3日目。
ついに学校が始まった。

学校は海外ドラマで見るような広い庭園や石造の校舎などではなく、街のビルの中の一部に入っているような小さい学校だったが、先生も学生もフレンドリーでアクティビティも多い、良い学校だった。
初日は十数人程度の学生と共にオリエンテーションや学力テストを受け、オリエンテーションに混じっていた日本人2人と何とか仲良くなって終了。
2日目からは学力テストの結果によりレベル別にクラスが分けられ、その中で過ごすようになった。
 
前日にオリエンテーションで話していた日本人2人は同じクラスにはならず、私と他にもう一人、計二人でその日のクラスの新入生として入ることとなった。
到着してから4歳児ショックと方向音痴の大冒険イベントを終えていた私は「初日から友達つ〜くろ!」的エネルギーなどとうに枯渇して目が死んでいたし、もう一人の学生も伏せた目と首元のヘッドフォンが隠キャオーラを醸しており、フレッシュ新入生のはずの我々は疲れ切った社会人の雰囲気で教室に入り、友好的な会話ゼロのまま各自腰を下ろした。

ちなみにこの後この学生は私の恋人となるのだが、この時点では当然恋の予感がしたり背景にバラが咲いたりはせず、人生の転機の瞬間としてはあまりにドライなものとなった。
せめて同じクラスになった瞬間「Love so sweet」くらい流せばよかった。
いや流し方知らんけども。

さて予想はしていたが、最初の一週間は怒涛だった。
授業の英語はよく分からないし、家に帰っても英語だし、なんならテキパキ老婦人は先生より早い英語で当然聞き取れないし、一回一回日本語に訳して意味を把握して答えをまとめてまた英語に直して喋って…なんてやっていたせいで頭が常にパンパンであった。
相手からしたら「この間○○に行ってさ〜」的なちょっとした無駄話でも、
(アッ話しかけてる⁈私に⁈最初聞き逃したな⁈でもどうやらどこかに行った話⁈今の単語なんだ⁈固有名詞か⁈私の知らない一般的な単語か⁈まって喋るの早くない⁈あっ私今顔怖い⁈笑顔はキープせねば!でもこれ何言ってんだ⁈だめだ全然分からない!せっかく話しかけてくれたのにごめん‼︎もう誰も喋りかけないで…ウワァー‼︎) ……サァ……
などと相手の話し中に勝手に塵になっていく有様で、
「誰か回復薬をくれ」とひっくり返って痙攣しながら泡を吹いていた。

そんな調子で通学しはじめて約3日、
「これはいわゆるレベルが上すぎるステージに来てしまったやつやな」と結論を出した。
いきなりヒョイとやってきて外国人の友達作ってレッツ異文化コミュニケーション!⭐︎
的なレベルに(語学力的にも性格的にも)私はいなかったということだ。

さてそれではゲーム内で、まともに歩けもしないような高難易度ステージに迷い込んでしまったらどうするか。
私は「仲間を増やして一緒に経験値を稼いでいく」戦法に出た。RPGの鉄板である。

幸い私のクラスには日本人の割合が半分近く、友達はすぐにできた。
(どこも中級クラスは「文法はできるが会話が苦手」な日本人が集まりやすいそうだ)
「学校で日本人と固まって日本語しか喋らない人もいて…」的な話も出国前に聞いてはいたが、私の友人達は皆他の国の人とも喋りたいという意欲が高い人達で、徐々に各自が日本人以外のクラスメイトとも話し始めたり、各国の挨拶などを教えあったり、友達が友達を呼んで一緒に食堂でご飯を食べたりするようになった。
仲間が増えればパーティー全体のレベルも上がりやすくなる。RPGの教訓である。


3週間ほど経って少し耳が英語に慣れたところで、英語の発音が綺麗な友人に教えてもらった”Meet up”というコミュニケーションアプリを使ってみることにした。

「英語学習」「趣味」「旅行に行きたい人」等沢山のグループが作られており、自分の好きなグループを見つけて申し込みをすると、任意で企画される集会やイベントに参加できるようになる。
英語学習を目的としたグループもあるから参加してみたら、と言われてそこから数回、現地の人たちとのカフェでの集会に参加した。
日本のアニメ好きは海外にも結構いるらしいし一人くらい反応してくれるかも、という軽い気持ちでジョジョのTシャツを着て集会に行ったら、いきなり隣に座った人がジョジョ好きで会話が弾んだ。着てみるもんである。

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なんなら鞄についていたキーホルダーと鞄の中にあるクリアファイルもジョジョだったが、なんとなく言わなかった。

この時点で私の英語力は甘めに見積もっても下の上レベルだったが、ジョジョのことになるとスルスル話せたし、相手の言葉も聞き取れた。
スタンド使いスタンド使いに引かれあう、ジョジョファンはジョジョファンに引かれあう。
そしてオタクパワーは言葉の壁を超える。これがその日の学びであった。
学校以外に友人の輪を広げられたのも嬉しかった。

週末に学校提携の日帰りツアーに行ってみたり、パブで軽やかに踊る友人たちにビビりつつ壁際でフルーツジュースを啜ったりと、隠キャなりにアクティブの皮を被って過ごしていたら(MPはだいぶ減った)、あっという間に私の卒業の日がやってきた。

卒業生は集まった生徒の前でスピーチをするという地獄の伝統があるのだが、あまりちゃんと話したことのなかったクラスメイトの一人が「君のスピーチとてもよかった!」とわざわざ後から言いに来てくれたので、卒業式の私はなにやら良いことを言ったらしい。
本人の方はスピーチ直後に全てを忘れていたので、動揺して「オッ Oh thanks」的な反応しかできなかった。ずっと陽キャを装っていたのに最後の最後で陰キャが出た。詰めが甘い。


こうして私は語学学校を無事(?)卒業した。
最初は1ヶ月の予定だったのだが、最終的には少しだけ延ばして6週間通った。
延ばした理由は、お金がかかる以上に良い経験も沢山増えたからだ。
放課後や休日に参加型アクティビティが豊富な学校も多いので、学校の掲示板をボケッと眺めていれば物ぐさな人間でも観光地情報が手に入るし、学生の間は年齢や人種や職種に関係なく、広く対等な友好関係が作りやすい。
2年近く経った今ではほとんどの友人は日本や母国に帰ってしまったが、NZにいる間は休みが合えばよく遊んだし、未だにSNSでやりとりもする。その人の母国の様子を見れば次の旅行で行ってみたいと思ったりもするし、ニュースで友人がいる国の名前を聞くと耳を傾けたりもする。
友人のSNSでどんどん私の世界が広がるのは面白いことだなあと思うし、語学学校に行ってよかったと思うことの一つだ。

忘れ去っていた英語を学び直すため短期で申し込んだ語学学校だったが、私にとっては語学力以外のところでも、沢山の学びと経験ができた場所となった。
これからもしあなたが長期で海外に滞在する予定なのであれば、最初に少しだけでも語学学校に通っておくことと、自分らしさを主張できるオタクアイテム的なものを持って行くことをオススメしたい。
それがきっといつか、自分にとっての回復薬になるからだ。