セーブデータ1

ニュージーランドでの日々を書いています。

インドアオタクが屋外アクティビティーに挑戦する話

f:id:marumo3030:20211018155040p:plain


2020年。
1月は仕事と猫(家)の往復でほぼ日々が過ぎていき、2月。
月末に勤務先を辞めた。

インド人と激突した末の結果ではなく(実際日々戦ってはいたのだが)、なんだかんだ日本人が多い場所では結局日本語を使ってしまうため、そろそろ英語を主体で使う勤務先にしたほうがいいかと考えたからだった。

何人もの日本人がブチ切れて即日で辞めて行くなか、退職日まで感情を捨てて黙々と鶏肉を切り刻んでいた私に職場のインド人たちは一周回ってむしろ優しくなっていた。
「I will miss you!」との言葉に微笑んで手を振りながら、じゃあNetflix観てないで多少仕事手伝って欲しかったわと思いつつ職場に背を向けた最終勤務日。


の翌日、私は10m超の上空の木の上で震えていた。


語学学校時代の友人たちに「Tree Adventuresいかない?」と誘われ、仕事の都合で友人たちとろくに遠出できなかった私は、なにそれ!いくいくー!と大して説明も聞かずホイホイ参加した。
飛んでアクティビティに飛び入る夏の運動音痴である。

その日は友人が大きい車をレンタルして、近くのスーパーで昼ごはんを買ってから出かけることになっていた。

そのスーパーで美味しそうなチキン弁当を発見し、アクティビティをするなら美味しいもの食べんと‼︎と意気揚々と購入、久々の遠出でウッキウキの私に死角はないと思われた。


現場について木々を見上げた私の第一声は、
「エッこれやるんですか」
だった。
専用の装備(命綱的なもの)をつけて木々の間を進んで行くのだが、ターザンロープ、左右に揺れる足場、その他多数の仕掛けが高さ14mの場所に吊るしてある。

SASUKEか。
日頃狭いキッチンでひたすらチキンや玉ねぎ刻んでた人間が。
急に高い木の上でSASUKEか。

もちろん安全面はしっかりと考慮されており、二重のベルトが身体を支えているため最悪木の上で手を離しても全然大丈夫なのだが、今まさに木の上にいる人間的には「全然大丈夫じゃない」事に変わりはない。


眼下に三途の川(幻覚)を見ながらなんとか数コースを終え、早くも始まった筋肉痛で手足をガクガクさせながら迎えた昼食の時間。
そうだチキン弁当、買ってた。よかった、カロリー欲しい、今。
疲れ過ぎてロボットのような動きになりながらも、弁当を取り出す。
そして取り出して気づく。
箸もらってくるの忘れた。

周りをサッと見回してみるが、大概皆サンドイッチかバーガーで、
そもそもカトラリーを使わないものを食べていた。皆なんて賢いんだ。
そして私はなんで今日チキン弁当にした。せめて寿司であれよ。
数人私と同じ弁当勢がいないこともなかったが、誰かが食べ終わってから割り箸をもらって食べるとなると、たたでさえ食べるのが遅い私は全員をかなり待たせてしまう。
あと「使い終わった割り箸くださいグヘヘ」と言うのも何か気がひける。
今後誤解が解けるまで全員に距離を置かれてしまう。

悩んだ結果、チキン弁当を前にして私は静かに瞑想にふけることにした。
弁当、買ってなかった。お腹すいてない、カロリーいらない、今。
絶望の果てにロボットのようなトーンで己に言い聞かせていると、私を哀れんだ友達がハリボーのグミを恵んでくれた。
ありがとう…と弱々しく言いながら数粒むしゃむしゃしていると、今度は口の中でガリッという音がした。
ペッと出してみたら、銀色の金具だった。

f:id:marumo3030:20211018154726p:plain

なにこれ絶対にハリボーのパーツじゃない。

鏡で口内を調べたら、数年前かぶせた奥歯の被せ物が取れていた。
もう神様がイジメ抜いてきてるとしか思えなかった。
筋肉痛かつ昼飯忘れて空きっ腹、あげく数年前の歯の被せ物が今取れるって何。

ちなみに私は以前2週間ほどヨーロッパ旅行に行った際、行きの飛行機で虫歯が目覚め、到着とともに鈍痛が始まりその後まともにご飯が食べられずやつれて帰国したことがあるので、今回は慎重を期して出国前に2箇所の歯医者をハシゴしていた。
レントゲンを撮ってもらっても信じきれず、念のため鎮痛剤までもらって、虫歯に対しては万全の構えでいたのだが、数年前に治療が終わった奥歯の被せ物が今取れるとは正直予想外だった。
外からの敵を警戒していたら家臣の明智光秀に裏切られた織田信長も多分こんな気持ちだっただろう(絶対に違う)。

きっと歯医者達も被せ物の耐久年数超えは予想外だっただろうから、彼らを責めることはできない。
口から出てきた銀のクラウンを見ている間は、流石に空腹を忘れられた。
いっそステータスがただの空腹だった頃の方がマシだった。

己の奥歯の被せ物を眺め呆然としている私をよそに、友人は言った。
「よしじゃあ次のコース行こっか」と。
そして私は言った。
「エッまだ終わってなかったんですか」と。
なんなら一番過酷らしいコースがまだ2本くらい残っていた。
ただでさえ個人的には空腹かつ歯が負傷中という過酷コース真っ只中なのに。
こちとら奥歯が本能寺の変なのに。

 

1つのコースはなんとかいけたが、もう片方は雲梯らしきものが出てきた瞬間棄権した。
私の腕の力は深窓の令嬢もドン引きするであろうレベルで貧弱なのだ。
雲梯にぶらさがり己の体重を支えた状態で前に進めるわけがなかった。

f:id:marumo3030:20211018154941p:plain


念のため書いておくが私の運動神経と筋力が人より残念なだけで、一般の方にとってここのアクティビティはとても楽しいはずである。
筋力残念人間側からのレポートでは楽しさがうまく伝わらないと思うので、今後ニュージーランド北島に行く予定のある方はぜひ以下からチェックしてみてほしい。
そしてお昼には箸やフォークを忘れないようにしてほしい。

treeadventures.co.nz

夕方くらいまでアクティビティを満喫したあとは皆で焼肉に行った。
私は燃え尽きた本能寺(被せ物を失った歯)に当たらないよう慎重に食事を終えたが、運動のあとの肉はそれでもやっぱり美味しかった。


そのあと駆け込んだ歯医者で被せ物を作り直して再び付けてもらったのだが、「その歯よりむしろ隣で静かに成長している虫歯がまずい」と言われ、また新たな謀反かよ!とガックリしながら翌週も歯医者に行き別の歯を治療した。口内の信長に人望がなさすぎる。
私の海外旅行保険では歯の治療はカバーしていなかったため、合計800ドルくらい(日本円で約65,000円)支払う羽目になって泣いたが、虫歯が激痛になってから処理をする場合は更に高額になるらしいので、歯の被せ物はむしろ隣の虫歯の進行を主人に知らせるために自ら身を投げ出した可能性もある。
そう考えたら途端に被せ物が愛しく思えてきた。
ありがとう銀の被せ物。何で今取れんだよとか言ってごめんな。
ありがとうハリボー。グミで高額治療かよとか思ってごめんな。

そう思いつつも、未だ私はスーパーでハリボーを買う気になれないでいる。