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ニュージーランドでの日々を書いています。

ビザが延びた女が再びビザに翻弄される話

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ファーム移動しようとしたり失敗したり出戻ったりと短期間でバタバタし、一周回って穏やかな心で黙々とブルーベリーを摘んでいるうちに5月が終わり、6月頭にシーズンは終了した。
いやブルーベリーのシーズンなっが。
5月頭って聞いてたけどなんだかんだ1ヶ月延命したな。
そしてNZ国内の早い地域では9月ごろからまた次のブルーベリーの収穫が始まるらしい。
シーズンオフ3ヶ月しかないのかよ。新連載が途切れない売れっ子漫画家か。


そして仕事がなくなると、また頭をもたげだすのがビザ問題である。
ビザが切れるのは6月末だが、6月に入っても情報は来ない。うん知ってた。
現在SSEビザで働いているほぼ全員がおそらく前回「今かよ‼︎」と叫んだはずなのだ。そして今の我々のビザは6月末に一斉に切れる。このまま何もせずにボーッとしていると、無職&ビザ喪失からの国外追放コンボが決まってしまうのである。

5月末からファームの宿内では「次どこ行く?」と「ビザどうなるかな」という会話がちらほら出てはいたのだが、6月に入るともはや「ビザどうしようね」の会話はほぼ挨拶のように交わされていた。
未だNZは国境をほとんど封鎖しており、国外からの人手は引き続き期待できない。しかし6月以降はNZ的には秋で、夏ほど収穫は忙しくない。よってそこまで労働力がいらない可能性がある。
ファーム仕事はもともと移民に頼っていたから緊急でSSEを発行したものの、ファーム仕事で人手がいらなくなった場合、政府が自国民の就職率を削ってまで移民に職を提供する可能性は低い。
はたしてビザは延びるのか延びないのか?
そして延びるとしたらそれをいつ言ってくれるのか?
1週間ごとに「来週情報が出るらしい」という噂が出ては消えていく。富岡さんには叱り飛ばされそうだが、我らガッツリ生殺与奪の権を他人に握られているのである。正確にはビザ与奪の権だが。
どのみち精神衛生上、非常によろしくない状況であるのは間違いなかった。


そしてこの間私が何をしていたかというと、精神を落ち着かせるためという名目でSwitchゲームソフトを買いあさっていた。
そう、これは必要経費だから仕方ないのだ。
ファームで農作物収穫ゲームをやる日が来るとはな…と言いながら牧場物語をプレイし、ファームで採集クエストをやる日が来るとはな…と言いながらモンハンをプレイし、友人にプレイ感想を語りながらファーム勤務をしているうちに、皆ポツポツとSwitchを買い始め、周囲には着々とゲーマーが増え、実に高校生時代ぶりに「このあと一狩りいこうぜ」と言い合う日々が続いた。
こんだけSwitch買う人を増やしたんだから、任天堂は私にゲーム一本無料券くらいくれてもいいと思う。
ビザ情報を求めてメールBOXを更新しつつ、画面の中でトウモロコシを収穫しながらそんなことを思った。

いや実際全然ゲーム内でトウモロコシ収穫に精を出している場合ではないのだが、追い詰められているのに何もしようがないのでもはや気を紛らわせるくらいしかないのである。ブルーベリーシーズンが終わり次はリンゴファームへと出向く人もいたが、ビザ情報が出たらすぐに動きたかった我々としては今更新しい職を探すのも気が進まなかった。そもそも1ヶ月以内にビザが切れる人間を即座に雇ってくれるところはおそらくきっとまたブラックである。同じ轍は踏まない。


周りでは飛行機の手配を進める人もいたが、私と恋人はお互いの母国の状況があまりよろしくないことから、ビザが延長されなくてもNZに留まるつもりでいた。理想は今のビザがそのまま無料で延長されることだったが、6月2週目に入ったあたりで、いつ出るのかわからない情報を待つより他のビザの可能性を検討した方がいいかもしれないという話になってきた。
学費はかかるが週20時間の労働が許される学生ビザを申請するか、貯金を切り崩しつつ自由に時間が使える観光ビザで留まるか。
しかしどちらにせよ田舎にいるよりはシティに戻った方がどちらにせよ便利だろうと、日本人コミュニティで家を探し、気に入った家をビデオ通話で内観させてもらい、ひとまずシティに住む場所だけは確保し、シティへの引越しをいよいよ決めたその数日後。

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NZ政府からの公式発表により、ビザが再度延長となった。


ちょうどその発表が出る数分前、知人に学生ビザに関する相談のLINEをしていたのだが、シャワーに行って帰って来たらその知人から大量の着信があり、何事⁈と慌てて掛け直したら「ビザ延びたねー‼︎」と言われて私は延長を知った。なんなら髪からはまだ水が滴っていた。
しまった完全に油断した。もういつ発表が来ても驚かんと思っていたのに。人がシャワーを浴びた隙を狙ってくるとは。

今回のビザ延長は現在SSEビザで働いている人が対象で、期間は6ヶ月。
しかし7月からは季節労働のみという縛りが撤廃され、
レストランや清掃など、ワーホリビザと同じ仕事につくことができるようになるという、我々が「あんなこといいな 延びたらいいな」と思い描いていた、まさに希望通りのビザであった。
シャワーから帰って来たら人生の見通し急に明るくなっとるやないかい‼︎
桃鉄でいうところの、ボンビー神から解放された矢先にエンジェルカードを引き当て、天使がふわふわ舞いながら毎ターン2億持って来てくれる状態である。
電話を切ってから急いで恋人にもビザ延長のニュースを報告しにいったら、
「え?フェイクニュースじゃなくて?100%は信じない方がいいよ」
と真顔で諭された。情報化社会に生きる人間としては正しいスタンスである。


かくいう私も「365日営業中!」と書いた店の臨時休業日には度々ブチ当たるのに、宝くじは300円以上当たったことがないタイプの人間なのである。突然のハッピーニュースほど怖いものはない。
にわかに信じがたすぎて、政府がメールで正式に私のアドレスにビザ延長の通知を送ってくる数日後まで、パソコン上の学生ビザ申請フォームタブを閉じられなかった。フェイクニュースじゃなくて本当によかった。


そして不安から解放された脳と耳元にささやく悪魔。
「学生ビザに消えるはずだったお金浮いたし、いま多少浪費しても予算上は実質タダじゃね?」
「7月からはシティで仕事探して働くんだし、今は思いっきりゲームしてても許されるんじゃね?」
ついこの前まで不安を紛らわせるという名目で思いっきりゲームしてた奴、どこの誰だ。
しかしそれはそれ、今は今である。我々はあっさり悪魔に負け、二人揃って笑顔でゲームショップに向かったのであった。