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ニュージーランドでの日々を書いています。

金欠のカモがブラック企業に料理されかける話

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ロックダウンのレベルが2に下がり、ATMに食われた私のクレカが無事復活した後。飲食店の営業が元に戻るに従って、再び少し求人が出始めた。

一時期は最悪の場合に備えて「快適に野宿ができそうな公園リスト」などを脳内で作り上げていた私だったが、各社採用活動が再開し始めた所でロックダウン前に面接の連絡をくれていた2社にダメ元で連絡してみたところ、ロックダウン中に帰国したスタッフが複数おり欠員が出たとのことで、6月上旬より2社掛け持ちで働けることになった。ロックダウン中テディベアを数えて暮らしていたニート、突然のダブルワークである。なぜいつも0か100かみたいな人生なのか。
3ヶ月の無職期間のあとのダブルワークは体力的にかなり厳しい予感はしていたが、それ以上に財布の中身が厳しすぎたし、このご時世に職があるだけありがたい。ひとまずやるだけやってみよう、と覚悟を決めることにした。


ダブルワーク1社目は既に何店舗も運営しているチェーン店、2社目はコロナ前にオープンを予定していた新店舗。1社目はマニュアルもスタッフも安定しており、研修も丁寧だった。
問題は2社目である。
ロックダウンで出鼻をくじかれ、おそらく変更点も多々あり、そもそもロックダウンで工事が遅れて店舗がまだ完成していないという状態だった。
いやよく人雇ったな?店舗がまだない店で働くってどんな状態?
色々なハテナが頭上を飛び交ったが、ひとまず本店舗ができるまで別店舗で研修になるということで、いったん頭上を飛び交うハテナは叩き落として組み伏せた。

が。


何十枚ものプリントを渡され「明日までに覚えてね」で終了の研修に始まり、契約内容とは違う仕事内容、前日の夜に変更になるシフト、の割に休日も突然「今日これる?」と電話で呼ばれ、行ったら行ったで「あっ今仕事ないわ〜誰かに聞いて仕事もらってきて!」等と言われたらい回しにされる始末。
いやまあ色々バタバタするよね〜未曾有の事態の直後だもんね!しょうがない!と押さえつけていた足元のハテナ達が、
「いや未曾有の事態ではあったが?
逆に言えばロックダウンでオープンまでの猶予が2ヶ月延びた状態で?
オペレーションがこんな状態の運営ってあるか???」
と再び頭上に浮き上がり、周囲を高速旋回し始めるのにそう時間はかからなかった。


ある日厨房から鮭の箱の受け取りを頼まれて、数キロの鮭の箱×10くらいを数箱ずつヨロヨロと階段を上り下りして運んでいたら、サインを貰おうと戻ってきた配送業社のおじさんがびっくりして一緒に運んでくれた。あらやだおじさん優しい天使!と思っていたのだが、
「逆に一人で重労働させられてるのが普通なの?君にとってここは本当にいい職場か?」
とド正論をつきつけられた。

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天使は優しいながらも辛辣であり的確であった。
私はグウの音も出ず棒立ちになり、秒速で真理をついたおじさんは階段の上まで鮭運びを手伝ってくれた後やはり素早く自分の仕事に戻って行った。さすが全ての仕事が早い。こちとらそのヤバさに気づくのに2、3週間くらいかかったというのに。

とはいえ貯金額が3桁になった時に雇っていただいた身である。あの時の精神的しんどさはもう経験したくない。これってブラック企業だな??とは思いつつ、ひとまず今はお金を貯めねばと渋々働いていた。今思えば新卒が殺されていくパターンの一つである。
そして次に待ったをかけたのは運送業者のおじさん、ではなく私の恋人であった。

「ダブルワークに関しては最初から理解はできなかったけど、君がやりたいって言ったから応援しようと思ったよ。だけど今君は嫌な顔しながら仕事に行って、嫌な顔して帰ってくるだろう、それなら応援はできない。君の味方ではいるけど、間違ってると思ったら言うよ。良い関係ってそういうことだろう」

あらやだいつのまにこんなにイケメンに育って。
任天堂Tシャツを着た恋人が世界一のイケメンに見えた瞬間であった。クリスマスにロールキャベツ食べてくれなかったけど、今なら許そうと思えた(※未だに根に持ってた)。

彼の言葉で完全に目が覚めた私はブラック職場に退職の意思を告げ、もう片方の職場一本で頑張ることにした。周囲の職場仲間は皆辞めたがっていたが、皆ロックダウン明けでお金がない人が多く、他の仕事も探している最中でなかなか辞められないと言っていた。普通であればもっと人がバンバン辞めていくような労働環境だったと思うが、ロックダウン明けの金欠な労働者たちはブラック企業的に良いカモだったのであろう。私は最初から2箇所仕事を持っていたから決意してすぐに辞められたのだ。日常的に不運ではあるが緊急回避性能のみ高いのが幸いした。

また約1ヶ月ほどではあったがダブルワークをした甲斐はあり、ブラック職場を退職した頃には銀行残高極限状態から抜け出すことができていた。ひとまず1ヶ月分の家賃程度の貯金は確保し、私はようやく息をついた。銀行残高4桁、決して裕福ではないが安心感が段違いである。

とりあえず、グッバイブラックカンパニー。上機嫌でもう一方の職場で働く私に降りかかる次の火の粉は3ヶ月後にやってくるのだが、それはまた別のお話。