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ニュージーランドでの日々を書いています。

腰痛女がブルーベリーファームにジョブチェンジする話

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いちごファームを後にしてシティに一泊し、恋人と合流してそこからさらにバスに揺られて8時間。恋人のSSEビザが下りるのを待ってからファーム内の宿に移動し、12月からブルーベリーファームの勤務を開始した。
いちごと違って簡単な体験すら経験がないので元より期待も幻想もゼロだったのだが、

超☆楽!!!


種類にもよるが大体の木は自分の身長より高いので、たまに踏み台に乗ったりしつつ、腕を伸ばしてそれらをプチプチと採って首に下げている容器に入れ、それがいっぱいになったら大きいケースに入れていくだけ。
コツを掴むとまあまあ早く採れるようになるし、日によっては○kg取れたら○ドル追加!といったボーナスデーもある。
なにより腰が楽である。それ以上望むものがあろうか。

そしてここのファームは出退勤が自由で、その日仕事に行くか行かないかは本人次第。稼ぎたい人は長時間入ってたくさん収穫してボーナスをもらえるし、自分の時間を優先したい人は自分が必要な分だけお金を稼いで帰るという、非常に自由な職場だった。
なにこのシステム日本にも欲しいな???
でもこれ確実に人をダメにするシステムだな???
日に日に自主休みが多くなっていく仕事仲間たちを見ながら、私もいつまで保つやら…と己の自制心を憂いていたのだが、気づけば結局ほとんど休むことなく黙々とブルーベリーを摘み続けた。多分ストロベリーファームからの差がすごかったせいだと思う。筋力皆無もやし女でも楽々続けられた。
そして気づけば年が明けていた。
なんてこった。2019年にニュージーランドに来てもう2021年である。
予想外にも程がある。3ヶ月で帰るかもとか抜かしてたのどこの誰だ。
2019年の私に教えてあげたい、お前2021年の年明けはNZでブルーベリー摘んでるぞと。

私も初めて知ったのだが、ブルーベリーは12〜1月上旬ごろは盛んに実り、1月中旬〜2月上旬に謎のトーンダウンをしたあと、2月中旬〜くらいからまた沢山の実をつけ出す。
この一旦のトーンダウンなに???
ここまで実が少なくなってまた盛りかえすなんてことある???
と寂しい木々を眺めながらやや不信気味だった1月下旬の我々であったが、そんなの杞憂とばかりに2月途中からブルーベリーは平然と復活し、モリモリ実をつけた。
そして2月になると、イチゴファームで一緒に働いていた日本人たちが数日違いでブルーベリーファームに来て、結局全員と再会した。
展開は少年誌だが場所がファームなので皆「おう…お前もか…」的テンションで終わる。ワンピースとかなら相当アツい展開だが、現実はだいぶドライだった。


2月・3月は収穫量も多くなるためボーナスをもらえるkgの基準も上がる。
ブルーベリーは長いレーンの両端・真ん中にそれぞれ人を配置し、手前の人は奥に向かって、真ん中・奥に配置された人は入り口に向かって収穫していくため
手前の人と真ん中の人はいつかどこかで出会うことになるのだが、どちらかが素早く進み過ぎるとどちらかがほとんど採れないまま終了となってしまう。
多くのkgを採るためにはもちろん広い範囲の木から実を集められたほうが大量収穫の可能性が高まるので、ボーナスデーは皆がブルーベリーの木を巡ってバチバチと静かな火花を散らすことになる。
だいたい皆、端から摘んで行って近づいてきて、ある瞬間からスピードを上げてくる。目があったらバトルをしかけてくるポケモントレーナーかよ。

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多くは無言で収穫スピードを上げながら隣人に圧をかけ、圧をかけられた方は内心舌打ちしながら自分もスピードを上げて牽制する程度なのだが、たまに全然静かじゃなく普通に口論や小競り合いになっている人たちもいて、ライアーゲーム並みに人間の本性炙り出してくるやんけ…と真顔になってしまった。
人は金で簡単に狂う、それが大して大金でなくとも。ボーナスデーこわい。
ちなみにこの時私の恋人はボーナスにもブルーベリーにも全く興味がなく、ボーナスデーにはベリー収穫中に見つけた鳥の巣を「amazing」などと言いながら嬉しそうに観察していた。ブルーベリー数グラムを巡って喧嘩されるよりは良い気がするが、普通に仕事はちゃんとしてほしい。

ファームについている宿についても、最初は10数人ほどだったメンバーが、繁忙期のこの時期は100人ほどになっていた。
キッチンも洗濯も共有ルームも、空きを見つけるのに一苦労である。
おまけに「No music No life!!」を地でいくラテン人グループも越してきて、公共の場で爆音ミュージックをかけキッチンで踊りだすため、静かに過ごしたい派のヨーロピアンやアジア人から終始遠巻きに冷たい視線が注がれており、異文化交流って難しいなァと遠い目をしながら耳を塞ぐ日々が続いた。悪意がないのはわかっているし音楽と共に生きていたい気持ちも分かるが、キッチンで踊り出すのは普通に危ないのでやめてほしい。
ちなみにこの時、ラテン人である私の恋人は他のラテン人を誰より冷たい目で見ていた。巨人を見るリヴァイ兵長と同じくらい冷めきった目をして、「これだからラテン人は」とキッチンから出るたびに舌打ちをしていた。いやお前もラテン人だろ。

ただ、人が最も多かったのは2〜3月中旬くらいまでの1ヶ月ほど。
3月からは多くのファームでキウイ収穫がスタートし、そちらのほうが給料も良いため、多くの人はそちらに移動していった。
が、キウイ収穫はかなりの体力仕事である。話を聞くだけでもう、もやし女には無理そうな気配がすごかった。
というわけで、給料より己の腰!と結論づけた我々は3月を過ぎてもブルーベリーファームから微動だにしなかった。音楽マン民族大移動により再び静寂を取り戻した宿で、たまに遊びに来る黒猫を撫でたりしながら我々は比較的平和に過ごした。
「お金は大事、だけど体はもっと大事」
額から流れる汗が鼻の穴に入ってフガフガしながらイチゴを採った暑い日、全身濡れ鼠状態のまま沼に嵌って足が抜けずジタバタしながらイチゴを採った雨の日、私たちはその教えを骨身に刻みこんだのである。
イチゴファームで得られた教訓は大きい。…二度と同じことはしたくないが。


そしてブルーベリーを摘みながら、黒猫を撫でながら、平和に過ぎ去った4月の後。
我々はまたもやビザにふり回されることになる。